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合同誌に寄稿した『金昔物語』の解説

 こんにちは、なををををををです。前回の記事からかなり間が空きましたがその間いかがお過ごしでしたでしょうか。僕は手荒れで指の皮がズル剥けになって皮膚科に行ったりしていました。親指の指紋が半分消滅しています。この状態で指紋認証登録したらどうなるんだろうとか考えちゃいますね。


 そんなことはさておいて、とっとと本題に移りたいと思います。



 僕が指をズル剥けにさせてヒーヒー言ってる間にタイムラインは冬コミ準備一色。僕も当日参加はしないものの、ある合同誌に寄稿する原稿(8p)と相互フォローの方の同人誌に寄稿するゲスト原稿(4p)の作業を抱えておりました。ズル剥け親指でペンを支えて描いた玉稿です。「ズル剥け親指」の語感が思いの外『はらぺこあおむし』に似ていたので誰か絵本にしてくれ



 で、この合同誌というのが「どうして私が美術科に⁉」という漫画に関するイラスト、漫画、小説を集めた『どうして私がアンソロに⁉』。僕はこちらの合同誌の表紙と漫画(8p)を担当させていただきました。100p超えとかいうとんでもない合同誌です。熱さ(厚さ)がすごい…



 問題はこの合同誌に僕が寄稿した漫画、『金昔物語(コンジャクモノガタリ)』なんですが、原稿完成後に何名かの参加者の方と原稿交換をした際に、ありがたい(本当にありがたい)お褒めの言葉とともに、


「桃音の作品がどういうことなのかよくわかんなかった」
「どういうことかわからんかった」


という意見もちらほらいただきまして…


 「これもしかしてなんか相当気を遣わせてしまったのでは……」となり僕はもう冷や汗ダラダラ親指ズル剥け。申し訳ないことをしました…

 参加者の方にはDMで解説とかできたんですが、当日冬コミで購入された方の多くにも伝わらない可能性がある以上自分の方で何らかの措置をしなければ…



 というわけで今回は『金昔物語』の解説記事を書かせていただきます。なんか自分が描いた漫画の解説するのめっちゃ恥ずかしいんですが、分かりづらく描いてしまった自分のせいなのでその責任は果たさねばなるまい…
 また、問題の部分だけでなく全体にわたって細かいネタを詰め込んでいるので、そこらへんの解説や、シナリオの製作過程の解説も含めて書いていきますので、「全然大丈夫、理解できたよ〜」みたいな読解力つよつよオタクの方もおまけ感覚でぜひ読んでみてください。


ちなみに全部分について語ってるのでネタバレ注意。





1.テーマ選択


 まず、この合同は漫画以外にも小説、イラストなども掲載されている合同誌でした。小説で参加されている方が多かったので、その中で漫画という形態を選ぶからには漫画にしかできない作品テーマや表現を取り入れたものにしたい!という僕のエゴから始まりました。


 そこで選んだテーマが「トロンプ・ルイユ(騙し絵)」でした。言うまでもなく視覚的な(漫画にしかできない)テーマで、「目の錯覚=間違い」「美術」と良い感じに原作とフィットしたのでこの方向で決めました。


 タイトルの『金昔物語』は、「金」という漢字と「昔」という漢字を合わせると「錯視」の「錯」になることと、「今昔物語」を合わせた掛け言葉です。僕はメチャクチャ言葉遊びの類が好きなので、隙あらば言葉遊びを挟みたくなっちゃうんですね。ポケモンのニックネームとかもそういう感じで決めてる。


 しかしいざ騙し絵をテーマにすることが決まったからと言ってトントン拍子で進んだわけではありません。ここからが地獄の始まりです…


2.各キャラの作品決め

 まず、ひとくちに騙し絵と言ってもその種類は多岐にわたります。飛び出しているように見える絵…錯視を用いた絵…はめ絵…などなど。「トロンプ・ルイユの課題が出て、X室メンバーがそれぞれ悩みながらも自分らしい形で作品を完成させる話」という大筋は作っていたのですが、この「それぞれが作る作品」というのがまぁ~~~~~思い浮かびませんでした。被らせたくはないし、かといって5種類も描いたらそれぞれの作品の解説パートを入れなきゃいけないから話の尺がエグいことになりそうだし…みたいな。

迷った挙句特に意味のない騙し絵の制作をしたりしていました。



 ここでめちゃめちゃ長い間どんづまってたんですが、「せっかくトロンプ・ルイユがテーマだしコマとか構図で遊べないかな?」という思いつきが生まれました。


 で、一旦各キャラの作品を考えることを放棄して、「前半にトロンプ・ルイユとか錯視を解説するパートを置いて、その中で実際にコマ枠とかを利用して描いてみよう」ということに。結果から言うとこれが相当いい効果を生みました。


 いろいろなパターンで描いてるうちに「あっこれ…この解説パートを各キャラが作る作品とか後の展開の伏線にすればいいんじゃないの!?」というアイデアが生まれ、最終的にはこのパートから桃音と黄奈子と翠玉の作品、「蒼と紫苑の関係」を展開の中に含めるのが決定しました。本編で言うと2、3ページ目ですね。

 で、あとはこれらの作品が繋がるようにストーリーを作ってネームが完成。ちなみにテーマをトロンプ・ルイユにするのを決めたのが8月あたりでネーム完成したのが10月末でした。悩みすぎ。


 後述しますが、桃音の作品は最後まで全然決まらず、そこが一番の遅延ポイントでした。



3.各ポイントの解説


 ここからはちょいちょい挟んでいる小ネタとか、伝わりにくそうだった本編の解説を書いていきます。この記事自体解説がメインだし…


・タイトル

 タイトルの意味についてはさっき解説したんですけど、それとは別の小ネタとして、このタイトルは若干浮かんで見えるようになっています。4p目の林田りん子もそうしてます。

 ただ、本編でも解説していますが、肉眼で実際に見るとそこまで飛び出して見えないんですよね。スマホとかで見てるとちゃんと浮いて見えると思います。


・2p目

 先述した通り、解説パートです。アイコラはこの場合若干意味がズレるかなと思いましたが、アイコラが何かわからず竹内に真剣な顔で聞く酒井の図が面白いなと思ったのでそのまま採用しました。


 コマ枠で遊ぶのはクソめんどくさかったですがまあまあ面白い試みにできたなと思います。ツェルナー錯視はちょっとわかりづらいかもしれないですが三本の線のうち一本を隠すとわかりやすいかもしれないです。
 パックマン刺激は、「カニッツァの三角形」という呼び方の方がメジャーっぽいです。でもこの場合三角形じゃないし…う~ん


 サブタイは「怒られが発生した」「作戦会議」との掛け言葉です。



・3p目

 1コマ目の蒼の体に添うように線を引いているのは、存在しないけど立体的なものがそこに存在しているかのように見せる手法。その横に描いてある図形は不可能図形です。不可能図形の立体については「不可能図形 立体」などで画像検索してもらえればいっぱい出てくると思います。また、不可能図形で桃音が「間違い」という単語に反応しているのは、後半で出てくる桃音の作品の意味のヒントとしています。ただこれが分かりづらかったばっかりに…


 サブタイは「厳格」と「幻覚」を掛けたもの。本編内で言われている「錯覚」から「幻覚」を連想しています。「化粧業」は体裁だけの真実味のない行為という意味の単語です。8コマ目の「化粧」の話題と掛けたタイトルです。



・4p目

 2コマ目は実際にカメラで撮ったりしてご覧ください。4コマ目のコマが飛び出している演出は、「突出した芸術を~」という本編の流れを絡めているのと同時に、6p1本目と対にするためです。1本目サブタイトルも対になっています。ここに関しては6p目の解説で書きます。


 あと6コマ目の背景にたくさんファイルが並べてありますが、これはさっと線引いたら大量にファイルが並ぶペンがあるんです。めっちゃ便利だと思う。


 2本目サブタイは「あなおそろしや」と「穴」を掛けています。



・5p目

 2コマ目ではツェルナー錯視が伏線として働いており、紫苑が自分と蒼の関係を「平行なようで離れていく」という風に捉えている…みたいな表現です。


 5コマ目の桃音の「始点が間違ってて」とは、間違って美術科に入ってしまったことです。言うまでもないかもしれないですが重要なポイントなので書いておきます。


 あと7コマ目も説明を省いてるのでわかりづらいポイントになってる気がする… ここで竹内がすいにゃんをチラ見しているのは「私は桃音をフォローするのでそっちは先輩がお願いします」的な視線です。


 なんで説明を省いたかって言うと、これを口に出して言わせるとダサいなと思ったからですが…省くとわかりづらくなってしまう点はどうやって解決すればいいかわかりませんでした。課題ですね。


 サブタイは「寝耳に水」と「ミス」を掛けたものと、『雨ニモマケズ』の締めである「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」から連想したものです。



・6p目

 4コマ目は4p目との対比…というかすいにゃんが言っている「ないものを埋める」ような描き方です。4p目4コマ目(蒼)を突出している立体としたとき、その足りていないスペースを埋めるのが6p目4コマ目(紫苑)となっています。
 左始まりの漫画だと4p目と6p目はどちらも右に来るページなので比較しやすいためこういう仕掛けをつけました。


 7コマ目の蒼の表情はめちゃくちゃこだわりました。先生のリアクションが見られなかった残念さとか、今から描き直す手間とかより「紫苑と一緒に何か作る」ということにわくわくしている様子を読み取っていただけたら幸いです。


 2本目サブタイトルは「相思相愛」と「蒼」「紫苑」を掛けたタイトルです。



・7p目

 1本目は竹内のターンです。

 これは2p目のパックマン刺激が伏線として効いており、「桃音を描いた人物スケッチ」が実際には描かれていない「桃音の髪飾りの形」を見えるようにしている、「見えないものが見える」絵です。
 4コマ目までのセリフが竹内の絵の意味の全部ですね。これはキャラクターに説明させることにエモさというか意味があるタイプなので言わせています。絵のタイトルはちっさくて見えづらいですが『発見』です。


 また、この絵は竹内から酒井に対してのメッセージでもあるので、どうびじゅ原作で言われているアートとデザインの区別におけるデザイン側です。ので、サブタイも「デザイン」としています。


 対して二本目、桃音のターンは「アート」です。これは明確に対比ですね。


 美術単語が説明なしでさらっと出てくる教師ならではの会話はわりと好きです。美術教師がほんとにそんな会話してるかは知らないんですが…

 
 蒼、紫苑の合作『凸凹ハイタッチ』はお互いがお互いの足りないところを補い合っているのを凸凹で表現している…のはまあ見た通りです。作品を写真にしてるところに「提出形式は自由」というのが若干伏線として機能しています。
 アナモルフォーシスに関しては特に伏線とかなく突然出てきた美術知識ですが…これはなんか解説パートで説明させちゃダメかな、と思いました。
 「紫苑には蒼が持ってない知識がある」って点を後半で強調させたかったので、(蒼も同席している)解説パートで紫苑がアナモルフォーシスについて語ることで「アナモルフォーシス」を「蒼も持っている知識」にしちゃいけないんじゃかな~~~…という思惑で解説パートからは省きました。


 で、桃音の作品ですが…まあわかりづらい形になっちゃったのは申し訳ないですね…でもこれも説明的すぎるとどうもな~~~というラインです。
 もっと時間を使ってわかりやすい形に出来たかも…というのが反省点です。わかってもらってこそのエンタメなので…


 で、この絵は上下の図形の塗り潰された黒い部分でそれぞれ1-1(普通科)、1-7(美術科)を表現しています。

 また、下の図形、「不可能図形」は「間違い」を表現しています。

 全体としては、「間違い」があったからこそ桃音は今1-7(美術科)にいる、「間違い」から意味が生まれることもある…という感じの絵です。

 で、そのタイトルが『どうして私が美術科に!?』となっています。絵のタイトルはやりすぎかもな…と思いましたが絵の意味的にもうまく嵌ったので使用させていただきました。


 (これは絶対誰も気づいてないと思うし気づかなくてもいいポイントですが1p目のトランプの数字がスペードのA,スペードの7,ハートのA,ダイヤのAで赤黒それぞれ1-1、1-7を表しています、それ以外に特に意味はないです)



・8p目

 桃音のモノローグが桃音サイドのまとめって感じです。わりと綺麗じゃない?そんなことない?ごめんね…

 
 で、まあオチですが別にすいにゃん先輩の作品を考えてなかったわけではなくて、それもまあ「作品形態は自由だし漫画を提出する」みたいな方向にしようと思ってました。
 でも普通に提出させたんじゃすいにゃん先輩だけ妙に大人というか完成されすぎちゃってる…という感じがしたので提出忘れ&流用で怒られるというオチにしました。ごめんだお


 で、くろえちゃんの指を描いてるんですが、これも色々ありまして。
 もちろんトロンプ・ルイユの一部ですが、「もしかして俺が今まで読んでいたのはすいにゃんの作品だったのか…?」みたいな…メタっぽくすることで、今までの7p半がどうびじゅ原作と切り離されたすいにゃん先輩による創作…と捉えることもできるようになっています。解釈は自由!
 (関係性とか桃音の心境の変化にまでちょっと踏み込みすぎたが故の措置でもありますね…)
 もちろんこの漫画はどっかからの流用ではないですよ、ほんとに…


 「そんなので騙せると思うなよ」は1p目にも出てるセリフですね。伏線ってわけではないですが…

 
 左始まりのおかげでこのオチを最後まで隠せてよかったです。


 サブタイは「未遂」とすいにゃんの「すい」を掛けています。「歪」は「歪み」で「ゆがみ」と読むのですが、テーマであるトロンプ・ルイユや錯視を表す単語としての「ゆがみ」、またすいにゃん先輩がやらかした過去作品の流用という「不正」を漢字一字で表しているタイトルです。
 今回のサブタイは言葉遊び多めですね…





 そんなわけで解説は以上になります。ながながとお付き合いいただいてありがとうございました。
 よいお年を…